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聖書語句の学び1「愛」

愛(旧約篇)

 「愛」は、旧新約聖書の中心的な概念の一つです。今回は、まず旧約聖書から「愛」について学びましょう。

Ⅰ.「愛」に関する語彙
 A.「愛(アハバー)」
  1.「愛(アハバー)」の同根語

     語源の動詞は、「愛する(アーヘーブ/アーハブ)」(創22:2等)で、名詞は「愛(アハバー)」(Ⅰサム20:17等)の他に、「愛(アハブ)」(箴5:19等)と「愛(オーハブ)」(箴7:18等)という形があります。

  2.「愛(アハバー)」の特質
   a.一般的な愛

      この語根は、「愛」を表すために、最も多く、また最も一般的にどんな種類の愛にも用いられています。

   b.自発的な愛
      後述の「恵み、愛、誠実(ヘセド)」は、「契約の愛」とも言われ、少なくとも「ある関係における愛」であり、契約又は関係によって条件づけられます。それに対して「アハバー(愛)」は、契約や何かの関係に基づく条件に制限されない、自発的な愛であると言えます。

   c.選びの愛
      「愛(アハバー)」は、条件に制限されず、愛する主体の意志ないし本質にのみ制限される愛です。神は自発的にイスラエルを「愛された(アーヘーブ)」ので、選ばれました(申4:37,7:7-8,10:15)。ですから「愛(アハバー)」は、選びの愛と言えます。逆に言えば、選ばれたということは愛されている証拠なのです(マラ1:2-3)。
 結婚相手を選ぶのは、その相手の人を愛するからです。キリストを信じ救われたということは、神に選ばれていたということです(エペ1:4等)。私たちは確かに神に愛されているのです。

 B.「恵み、愛、誠実(ヘセド)」
    この言葉は旧約聖書において非常に重要な位置を占めているので、少し詳しく学びましょう。
  1.「恵み、愛、誠実(ヘセド)」の意味
   a.根源的な意味

      「恵み、愛、誠実(ヘセド)」は、一般に「契約の愛」を表していると言われますが、その理解に賛同しない学者もいます。しかし少なくとも、ある関係における、持続的で誠実な態度、愛情、行為を表していると言えます。

   b.多様な意味
      新改訳2017では、「恵み」(創19:19等)、「誠意」(同21:23等)、「愛」(同47:29)、「親切」(Ⅰサム15:6等)、「真実」(同20:8等)、「忠誠」(Ⅱサム16:17)、「恵み深い」(Ⅰ列20:31)、「誠実な行い」(ネヘ13:14)、「友情」(ヨブ6:14)、「恵みのわざ」(詩109:16)、「真実の愛」(イザ54:8,10等)、「真実な約束」(同55:3)、「誠実」(ホセ12:6等)等と多様に訳されています。
さらに「ヘセド」には全く別の「恥、非難」という意味もあります(レビ20:17,箴14:34)。語源の動詞の「ハーサド」は、ピエル形(強意能動態)で「非難する、辱める」の意味です(箴25:10)。「恵み、愛、誠実(ヘセド)」とは語源を別とする辞書もある一方で、「鋭さ、熱心さ」を意味する共通の語根を想定する学説もあり、語源の共通性は不明です。
その実例を箴言19章22節前半に見ることができます。新改訳第三版までは「人の望むものは、人の変わらぬ愛である」が、新改訳2017では「人の欲望は自らへの辱め」に改訳されています。「ヘセド」を「変わらぬ愛」と理解するか、「辱め」と理解するかによって、文章の意味が全く異なってきます。

  2.「恵み、愛、誠実(ヘセド)」の同根語
     語源の動詞「ハーサド」は、ヒトパエル形(強調再帰態)で「恵み深くある、慈しみ深くある」を意味します。
形容詞形は「恵み深い、敬虔な(ハーシード)」で(Ⅱサム22:26=詩18:25等)、旧約聖書の用例32回中、25回は詩篇に出てきます。神の形容としても用いられますが(詩145:17,エレ3:12)、名詞的用法は「敬虔な者(人)」(詩12:1等)を意味し、「聖徒」(同4:3等)とも訳されます。「敬虔な人、聖徒(ハーシード)」は、主の「恵み、愛、誠実(ヘセド)」の対象であり、その結果「恵み、愛、誠実(ヘセド)」に特徴付けられる人です。つまり「敬虔な人(ハーシード)」とは、神の「恵み、愛、誠実(ヘセド)」に拠り頼む人なのです(同52:8,9)。
また、詩篇16篇10節には、究極の「敬虔な者(ハーシード)」である復活のキリストのことが語られています(使2:25-32)。因みに、この箇所の旧約ギリシア語訳(70人訳)とその引用である使徒2章27節の「敬虔な者」のギリシア語は、「聖者(ホシオス)」(第三版)です。『聖書新改訳2017』は、引用元の旧約ヘブル語に合わせて、引用文の新約ギリシア語の翻訳を改訂しています。

  3.「恵み、愛、誠実(ヘセド)」の特質
   a.不動で真実な愛

      二つの名詞が結び付けられて、殆ど同義か、緊密な関係を示していることがあります(二詞一意)。「恵み、愛、誠実(□へヘセド)」は、「堅固、忠実、真理(エメト)」や「堅固、不動、忠実(エムーナー)」と共に23回も出てきます(詩25:10等)。またこれらの語は並行法において「ヘセド」の対句としても9回も出てきます(同26:3等)。
 本シリーズの「真理と真実」の項で取り上げますが、「堅固、忠実、真理(エメト)」と「堅固、不動、忠実(エムーナー)」は動詞「確かめる、固める、支持する(アーマン)」の名詞形です。因みに副詞が「真実に、確かに、本当に(アーメーン)」(申27;15-26等)です。これらの言葉と二詞一意的に、また並行法で使用されることからも、「□へヘセド」の表す関係には、「確かさ、堅固さ、不動、真実、忠実さ」があることがわかります。「ヘセド」は、不動で真実な愛なのです。

   b.永続する愛
      上記のように不動で真実な愛であるなら、持続、永続する愛であるはずです。実際、不変不動で永遠の神の愛を表現する文脈の中で「ヘセド」は使用されています(出20:6,申5:10,7;9,イザ54:10,55:3等)。
 また詩篇に頻出する表現「主の恵み(ヘセド)はとこしえまで」(詩100:5,106:1等)は、詩篇136篇で26回も繰り返され、詩篇以外にも多く登場します(Ⅱ歴7:3,6,20:21等)。
 この「ヘセド」は、死をも超えた神や人の愛を表すために用いられます(ルツ2:20,Ⅱサム2:5)。神の愛を妨げるものは何もないのです(ロマ8:38-39)。

   c.本質的な神の愛
      「恵み、愛、誠実(ヘセド)」は、「あわれみ(ラハミーム)」と共に6回出てきます(詩25:6等)。また「公正(ミシュパート)」と「正義(ツェダーカー)」(エレ9:24等)、「恵み、好意(ヘーン)」(エス2:17)、「いつくしみ(トーブ)」(詩23:6)、「慰め(タンフーミーム)」(詩94:18-19)と共に出てきます。前述の「堅固、忠実、真理(エメト)」や「堅固、不動、忠実(エムーナー)」も含めて、これらの言葉はすべて神の属性やみわざを表すものです。つまり、「恵み、愛、誠実(ヘセド)」は、神の本質から出てくる愛です。神は愛の神ですから、愛されるのです。また人について用いられる場合は、本来は神の愛を反映するような愛を表しています。

   d.関係における愛
      「恵み、愛、誠実(ヘセド)」は「契約の愛」と言われます。「契約(ベリート)」と共によく出てきます(申7:9,12,Ⅰ列8:23,Ⅱ歴6:14,ネヘ1:5,9:32,詩25:10,89:28,106:45,ダニ9:4)。また根底や背景に契約がある場合が多くあります(出20:6,34:6,Ⅰサム20:14-16等)。「ヘセド」はある関係を示しており、少なくとも契約という関係は「ヘセド」に示される関係の一つです。「ヘセド」は契約当事者相互の取るべき態度を表すのに適切な用語であると言えます。
 ヨナ書2章8節の「自分への恵み(ヘセド)」は、新改訳2017脚注にあるように「自分の忠節(ヘセド)」とも訳すことができます。このように「ヘセド」には神から人への「ヘセド」と人から神への「ヘセド」という、二つの面を見ることができます。
 私たちが、神の本質から来る、不動で真実な、永遠の愛「ヘセド」をもって愛されていることをキリストにあって本当に知るなら、主を愛し主に自分を献げ、互いに愛し合うことができるのではないでしょうか(Ⅰヨハ4:7-12)。

 C.その他の「愛」
    上述の二つの言葉以外にも聖書には多様な「愛」を表す言葉が出て来ます。
  1.「愛されている、愛らしい(ヤーディード)」(申33:12等)
     名詞「愛するもの(イェディドゥート)」(エレ12:7)、ソロモンの別名「エディデヤ(イェディーデヤー/主に愛された者)」(Ⅱサム12:25)、ヨシヤ王の母の名「エディダ(イェディーダー/愛された者)」は、同語源です。

  2.「愛、愛する者(ドード)」(雅1:2,13等)
     雅歌では女性が愛する男性を語る表現として使用され、新改訳では「愛する方」と訳されています。「おじ」(レビ10:4等)の意味もあり、女性形は「おば(ドーダー)」(レビ18:14等)です。「ダビデ(ダーウィド、ダーウィード)」(Ⅰサム16:13等)、「ドド(ドードー)」(士10:1等)等の人名も同語源です。

  3.「友、恋人(ラヤー)」(雅1:9等)
     雅歌では男性が愛する女性を語る表現として使用され、新改訳では「愛する者」と訳されています。「交際する、交わる(ラーアー)」(箴13:20等)、「友、隣人(レーア)」(レビ19:18等)、「友(レーエ)」(Ⅱ列15:27等)、「(女)友達、付き添い(レーアー)」(詩45:14等)等と同語源です。

  4.「愛する(ハーバブ)」(申33:3)
     旧約聖書唯一の用例で、主の愛を表しています。人名「ホバブ(ホーバーブ)」(民10:29等)も同語源です。

  5.「節度のない愛情を持つ(アーガブ)」(エゼ23:5等)
     イスラエルの民が偽りの神々やその民を恋い慕うことを表現する場合等に用いられ、新改訳では「欲情を抱く」等と訳されています。派生語に「(感覚的な)愛(アーガーブ)」(エゼ33:31,32)、「好色(アガーバー)」(同23:11)、「笛(ウーガーブ)」(創4:21等)があります。

  6.さらに広義の「愛」
     「愛」という概念の範囲を広げるならば、愛の結びつきをも表す「くっつく(ダーバク)」(創2:24等)、好意をも表す「喜ぶ、気に入る、欲する(ハーフェーツ)」(創34:19,Ⅰサム19:1等)、「愛着する、(恋い)慕う、熱望する(ハーシャク)」(創34:8等)等もあげることができます。
 なお「恵み(ヘーン)」、「あわれみ(ラハミーム)」、「喜ぶこと、好意、受容、意志(ラーツォーン)」は、別の聖書語句の学びで取り上げます。

Ⅱ.「愛」に関する事実
 A.人の愛
  1.愛の対象

    神や人だけでなく抽象名詞等、あらゆるものが愛の対象となります。神の民は、神ご自身(出20:6,申6:5等)と神に属するもの、御名(詩5:11)、隣人(レビ19:18等)、寄留者(申10:18,19等)、主の住まいのある所(詩26:8)、主の救い(同40:16等)、仰せ(同119:47,48)、みおしえ(同119:113等)、さとし(同119:119)、みことば(同119:140)、戒め(同119:159)、さとし(同119:167)、エルサレム(イザ66:10等)、善(アモス5:15)、誠実(ミカ6:8)、真実と平和(ゼカ8:19)を愛します。主は民が主を愛するようにしてくださいます(申30:6)。また主はご自身への民の愛を試みられます(同13:3)。
 人への愛に関して、「アハバー(愛)」の語根は、妻と子(創37:3,4,出21:5,Ⅰサム1:5等)、異性(士16:4等)、自分や友人(Ⅰサム20:17等)、個人(Ⅰサム16:21等)等に対する愛に用いられますが、夫や親に対する愛には用いられていません。
 また人は空しいもの(詩4:2)、呪い(同109:17)、賄賂(イザ1:23)、さまようこと(エレ14:10)、悪(ミカ3:2)、偽りの誓い(ゼカ8:17)等を愛すべきではありません。
 何を愛するかは、その人の心の態度が決めるのです。欺く者は、偽りと滅びのことば(詩52:3,4)を愛し、嘲る者は叱られることを愛しません(箴15:12)。

  2.愛の結果
    人は愛する対象によって結果を刈り取ります。知恵(箴4:6等)、心のきよさ(同22:11)を愛する者は幸いです。心を得る人は自分の魂を(同19:8/原文直訳)、知恵を憎む者は死を(同8:36)、訓戒を愛する人は知識を(同12:1)愛することになります。背きの罪を愛する者はけんかを愛します(同17:19)。人は舌を愛して、その実、死か生を食べることになります(箴18:21)。眠り(同20:13)、快楽、ぶどう酒や油(同21:17)を愛する者は貧しくなり、真っ直ぐなことを語る者は愛されます(同16:13)。
 偶像に関して、寝床(イザ57:8)、干しぶどうの菓子(ホセ3:1)、姦淫の報酬(同9:1)を愛すべきではありません。それは恥を愛することです(同4:18)。
 この世では富む者は愛されるかもしれません(箴14:20)。しかし、人は金銭、富を愛しても満足することはありません(伝5:10)。

 B.神の愛
    神は、ご自身のもの、イスラエル(Ⅰ列10:9等)、シオンの山(詩78:68)、シオンの門(同87;2)、そして主の聖所(マラ2:11)を愛されます。ご自身の民を永遠の愛をもって愛してくださいます(エレ31:3)。さらに神は御民だけでなく、もろもろの民(申33:3)を愛されます。すべては主によって造られたもので(ネヘ9:6)、主のものであるからです(申10:14)。主は愛する者を叱られます(箴3:12)。
 また神は正義と公正を愛されるので(詩33:5等)、正しい者たち(同146:8)や義を追い求める者(箴15:9)を愛されます。
 さらに主はご自身に背く者をも愛されるのです。ホセアは、夫に愛されながら姦通している女を愛するように命じられました(ホセ3:1)。それは背くイスラエルに対する無条件で至高の主の愛を知らしめるためでした。
 
「わたしの目には、あなたは高価で尊い。わたしは(強調)あなたを愛している(アーヘーブ)。」(イザヤ書43章4節)                                         

「永遠の愛(アハバー)をもって、わたしはあなたを愛した(アーヘーブ)。それゆえ、わたしはあなたに真実の愛(ヘセド)を尽くし続けた。」(エレミヤ書31章3節)  
                                  

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